ミュージカルでも、みんなで叶える物語
人々は時として永遠な物よりも、限りある物に惹かれてきました。
平家物語曰く、『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す。』と。
方丈記曰く、『ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。』と。
これは古文に限らず、現代に生きる私たちの身の回りでも。
例えば、打ち上げ花火。もし花火が有限でなく、空でずっと炎を撒き散らしていたら眩しいしうるさいしで風情もへったくれもありゃしません。夏の風物詩たる所以は一瞬で消えてしまうその儚さにあります。
例えば、桜。もしも1年中満開の花を咲かせていたら美しさや希少性は損なわれ、春先にお花見をするなんて文化・風習はとうの昔に消え失せているでしょう。春だけに美しく咲き誇り、少し経てばきらりひらりと舞い散る切なさに人々は風情を感じてきました。
例えば、スクールアイドル。一般的なアイドルは明確な終わりが定められているわけではありません。その一方で、スクールアイドルは3年間という限られた時間の中で精一杯輝こうとする(※どちらが良いとか悪いとかいう話ではなく)。
普通の少女たちが有限な世界の中で悩み、悶え、葛藤し、時にぶつかり合って、それでも前に進んでいく姿に惹かれた人が大勢います。
終わりがあるからこそ、美しい。
でも、まだまだ終わらせたくない気持ちもあって。
今回はそんなお話。
Rhyzm観、開演です。
0.ラブライブ!とは
2010年から始まったスクールアイドルプロジェクト。
音楽・アニメ・2.5次元ライブ・ゲーム・ラジオ・漫画・小説・Web上など様々な媒体で展開されており、誰しも一度は名前を聞いたことがあるでしょう。
当記事の本題ではないので見たことない方はぜひ一度アニメや楽曲をどうぞ!
1.スクールアイドルミュージカルとは
アニメでもなく、2.5次元ライブでもなく、ミュージカル。
既存の作品を舞台化するのではなく、ストーリーや楽曲も完全オリジナル。
ラブライブ!史上初の試みとなった本作は大きな反響を呼んでいます。
筆者は東京と大阪で1回ずつ観劇したのですがその感想としては
アニメ1クール分並みの内容を2時間半に凝縮し、スクールアイドルたちが命を燃やす瞬間を間近で観ることができるという新しいラブライブ!
でした。
Twitter上でも「見てよかった」「完全にラブライブ!だった」という意見で溢れかえっており、さらに大阪の大千穐楽では終演後も鳴り止まなかった拍手が我々の感動と感謝を表していました。
舞台の上で紡がれた「みんなで叶える物語」の、何がそんなに魅力的だったのか。
1オタクの戯言ですがお付き合いいただければと思います。
2.スクールアイドルミュージカルの魅力
※2度観劇したとはいえ、うろ覚えの箇所が多々あります。曖昧な表現や勘違い等あるかもしれませんがご容赦ください…
2-1.有限な世界に生きるスクールアイドルを舞台上で表現
かつてμ'sのリーダーは言いました。
「限られた時間の中で精一杯輝こうとするスクールアイドルが好き。」と。
彼女たちには時間がありません。長くても3年間。中には1年間もない人さえいます。
さらにグループである以上、同じメンバーだけで活動できるのは最長で1年間。
そんな中でも全力で前に向かって走り続けるスクールアイドルの輝きに魅せられて様々な物語が生まれてきました。
普通の少女たちが出会い、グループができ、時にぶつかって、それでも立ち上がって、そしてステージで自分たちだけの輝きを放つ。
それがスクールアイドル。
スクールアイドルミュージカルではその大前提に加えて、時間と場所の2つで制約を設けました。
時間としては、舞台上のたった2時間半。
場所としては、円盤化も配信もなく舞台現地のみ。
アニメよりもずっと限られた世界の中で繰り広げられたのは、
-ルリカが憧れ、アンズと出会い、椿咲花を巻き込み、そして椿咲花と滝桜が1つになり、文化祭ステージに立つ-
という、紛れもないスクールアイドルの物語でした。
0から何かを始め、仲間と共に成長していく物語は私たちをどうしようもなく虜にします。
さらに現地でしか味わうことのできない臨場感や高揚感がミュージカルだけの価値として物語を盛り上げてくれていました。
我々観客は彼女たちの一度しかない青春を正に目の前で観ることができたのでした。
2-2.「廃校」というテーマを扱いつつも、それをあまり重く捉えすぎなかった
ラブライブ!シリーズには「廃校」というテーマがよく付き纏います。
音ノ木坂も、浦の星も、結ヶ丘も、「スクールアイドル活動で廃校を阻止する」という内容がどこかで触れられてきました。
そしてそれはこのスクールアイドルミュージカルでも同じでした。
特に椿咲花は定員割れという単語が出てくるなど非常に生々しい廃校へのリアルさを抱えている様子でした。
しかし明確に違う点がありました。
それは、廃校というテーマと向き合いすぎなかったことです。
これまでのシリーズでは廃校のことをメンバー全員が知っていたり、廃校阻止のためラブライブ!で優勝することを目標として掲げていました。
でも、椿ルリカは誰にも言いませんでした。
「この学校が廃校の危機にあるから、みんなでスクールアイドル活動をしてこの学校を救おう!」と。
その一方で、椿ルリカは言いました。
「本当はみんなとアイドル活動したかっただけなのかも!」と。
この言葉は決して「別に学校が廃校になってもいいや」という意味ではありません。ルリカは何よりも父との約束を大事にしていましたし、母や学校のこともとても大切に想っていた娘です。
でも、大事な約束よりも大事なことが彼女の中で見つかったのです。
自分の中で初めて生まれた大好きなもの、いつも周りにいてくれる大切で大好きな友人、そして今しかできない「学校でアイドル」…
スクールアイドルの本質とも言えるような「やりたいからやる!」という想いがこれでもかと伝わってきて、観ている観客も、そして理事長2人も心が熱くなりました。
「子どもたちがあんなに頑張っているのに、私たちが意地を張っていてどうするの」と言い、2つの学校は最終的に1つの学校となって、理事長2人は共同で経営するパートナーとなりました。
少女たちが一歩目を踏み出し、その想いが周囲の人々を巻き込んでいき、何かが少しずつ変わっていく。
「それがスクールアイドル!」と言わんばかりの純粋な想いと熱量を間近で浴びれるのが最高に気持ちいい空間でした。
余談ですが、個人的にはアニメ虹ヶ咲を所々で感じられる舞台でした。
「スクールアイドルがいて、ファンがいる。それでいいんじゃない?」と同好会のマネージャーが言ったように、
また舞台では「やりたいからやるんだ!」とゆめの羅針盤で叫んだように、
廃校阻止という大きな目標に向かうだけがスクールアイドルの使命ではありません。
普通の女の子がちょっと背伸びして、それぞれがそれぞれのやりたいことを表現するのがスクールアイドル。それをどちらも体現していたように感じました。
また、パンフレットにはこのように書かれています。
ラブライブ!シリーズは(中略)スクールアイドルがいるだけのところから始まった、可能性無限大の「みんなで叶える物語」です。
廃校阻止も、ラブライブ!優勝も、それぞれの大好きを貫き通すのも、ただやりたいから始めてみるのも、全部スクールアイドルの物語なのです。
「ラブライブ!とは廃校を阻止する物語である!」というような既存概念を良い意味で壊してくれた2つの物語にこれからも注目です!
3.変化・進化する歌
ラブライブ!の楽曲は歌う度に変化、あるいは進化(以降まとめて進化とする)を遂げます。
「START:DASH‼」は3人の苦い思い出から、9人の始まりの曲へ。
3人であの日歌えなかった「未熟DREAMER」も、9人の始まりの曲へ。
8人で歌い1人が奏でた「想いよひとつになれ」は9人でひとつの曲へ。
輝きに惹かれて生まれた「TOKIMEKI Runners」は今となっては誰かにときめきを与えられる存在へ。
9色で織りなした「未来ハーモニー」は夢を見る度に色が増えていき、13色の虹へ。
当初無観客で奏でた「私のSymphony」は新たな一歩を踏み出す勇気を与える曲へ。
例を挙げればキリがないほど、ラブライブ!の歌は進化し続けてきました。
アニメで進化した曲、ライブで進化した曲、アニメとライブの狭間で進化した曲などそのバックグラウンドは様々です。
そしてそれは、スクールアイドルミュージカルでも。
例えば、M4:夢見る世界 でルリカは
「どんな気持ちなんだろう どんな感覚なんだろう
彼女が見ている景色 まるで違う景色なのかな
いくら想像してみても 私には関係ない世界…
パパとの約束 パパと最後にかわした約束
それが私にとっての一番の世界 大事な約束」
と歌っています。
アンズや滝桜のパフォーマンスを見てそのキラキラした世界に憧れるものの、私には無理だという諦めが感じ取れます。
しかし母から廃校の危険性があることを知ったルリカは M12:平凡な未来 で一部同じフレーズを歌います。
「パパとの約束 パパと最後にかわした約束
それが私にとっての一番の世界 大事な約束」
しかしここでは歌い方や心情に変化が訪れています。
諦めから、決意へ。
母であるマドカを悲しませないため、勉強も頑張る上でアイドル部を立ち上げようという決意の歌となっていました。
そして続く M13:噂の転校生 ではアンサンブルが残りのフレーズを歌います。
「どんな気持ちなんだろう どんな感覚なんだろう
彼女が見ている景色 まるで違う景色なのかな
いくら想像してみても 私には関係ない世界…」
ここでのアンサンブルたちの心情としては最初のルリカと同じく、憧れと諦め。
しかしそこから一歩目を踏み出したか否かの差が如実に表現されていました。
一歩だけでも踏み出して前に進んでいくルリカたちが上手(客席から見て舞台の右)に走っていったのとは対照的に、アンサンブルは舞台の下手(舞台の左)に猫背で歩いていきます。
同じ歌、同じフレーズなのに、歌い方や立ち振る舞いで大きく印象が変わる。
これは紛れもなく歌の進化、と言えると思います。
また、君とみる夢 でアンズが歌った時の
「いつでも全力のキミを助けるから」
と、
ストリートライブ前に姿を見せたユズハが歌う
「いつでも全力のキミを助けるから」
は、同じようで別々の解釈ができます。
アンズは、まだ走り出したばかりだけどアイドル活動にひたむきで一生懸命なルリカたちに心を動かされ、しばらく忘れていた歌やダンスの楽しさを思い出させてくれたことに対する感謝を。
ユズハは、これまでルリカとずっと一緒に過ごしてきた中で感じたこととこれからの決意をそのまま歌詞にして、文字通り1人で歌おうとしていたルリカを一番近くで支えるために。
歌う人が変われば立場が変わり、歌詞の意味が変わり、その結果として歌の深みが増します。これも歌の進化と言えますね。
さらにこの流れを踏まえた上で椿咲花5人でのステージではあえてアンズのパートを空けておき、サビからアンズが合流して「君とみる夢」が完成するという…
椿咲花の5人にとって、「君」にはアンズが入っていないとダメだという意思表示。
これぞスクールアイドル、これぞラブライブ!と言えるような最高の歌の進化でした。
2-4.冒頭ダイジェスト映像
長々と語ってきましたが、百聞は一見に如かず。
観たことない方は是非一度、冒頭の約10分間をどうぞ!
(ルリカの M4:夢見る世界 は2:33~です)
3.終わりに
今のところ、再公演や円盤化の予定はないとのことです。
冒頭で「人は永遠より限りある物に惹かれる」なんて書きましたが、
いくらなんでもたったの17公演で終わってしまうのはあまりにも悲しすぎます。
しかしご存じでしょうか。
当初はアニメ化の予定がなかったにもかかわらず、既にアニメ2期まで放送が終了し今夏には新作OVAが控えている作品があることを。
「あなたと叶える物語」を体現したグループがあることを。
もしこの記事を読んでくださったあなたが、
「もう一度スクールアイドルミュージカル観劇したい!」
「今回観れなかったから次は絶対観たい!」
と少しでも思っているのなら、ぜひTwitterで
#みんなで叶えるSIM
を付けてつぶやいてください。
また最高の空間を作るために #みんなで叶えるSIM で、想いを届けてください。
— 『スクールアイドルミュージカル』公式 (@sim_LoveLive) 2023年1月29日
キャスト・スタッフ拝見いたします。皆様のお声があれば、再演をはじめ叶えられる物語があると信じています。
これからも #スクールアイドルミュージカル への参加と応援をよろしくお願いします!「約束」です! #lovelive pic.twitter.com/f09rWixspv
カーテンコールのステージで「私たちの文化祭を見に来てくれてありがとうございます!」「また会いましょうね!」と言われたように、我々観客も含めての「みんなで叶える物語」です。
最後に全員で「君とみる夢」を歌ったように、
いつかは同じ「再演をはじめ叶えられる」夢信じ、どこまでも
走り続けていきましょう。
1人1人の声は小さくても、集まれば大きな声になります。
自分がつぶやいたところで何かが変わるわけじゃない、なんて思わずに、
彼女たちのように、少しでもいいから最初の一歩を踏み出してみませんか?
最高に「ラブライブ!」してるスクールアイドルミュージカルを一緒に応援しませんか?
いつでも全力のキミを支えるから!
きっと、きっと、いつかはきっと…!
Rhyze_りぜ